ATRACは同一デジタル入力に対して、
同一のエンコード結果を出力するのか?
(暫定版)


本実験はあくまでもバイナリデータレベルのお話です。
この結果が聴感覚上認識できるもかどうかは保証いたしません。

1.はじめに
 みなさんCDからMDにデジタル接続によりコピーされるともいますが、同じ曲を別のディスクに録音したり、一度削除して再び同じディスクに録音し直した経験はお有りかと思います。新しいMDシステムを購入したから新たに録音したというのではなく、今まで使用し続けたCDデッキ、MDデッキ、デジタルケーブルもしくはCD・MD一体型システムなどで行った場合、以前録音したものと今回録音したものはデータ的に「全く一緒なのだろうか?」と言う疑問が私の中に湧いてきました。

2.実験開始
 CDの同じ曲(ある1曲)をMDに7回録音します。このときの接続はもちろんデジタル接続です。当然7トラック出来ます。本実験の録音はMDS-DL1(ATRAC TYPE-R)を使用しました。さてこの曲をパソコンに取り込みます。再生機はケンウッド「DM-9090」でデジタルオーディオインターフェースはカノープスの「DA-Port2000」で、取込ソフトはそれに付属してきたものを使用しました。録音機、再生機が異なりますが、各トラックに対して録音時ATRAC、再生時ATRACは同一条件になりますので問題ではありません。(ただしディスクの内周、外周の違いは今回考慮していません)

 取り込まれたWAVファイルの比較は、スペクトラムアナライザ「WaveSpectra」でお世話になっているefu氏の「WaveCompare」を利用します。本ソフトはWAVファイルのバイナリレベルの比較が出来るツールで、さらにファイルの先頭や最後の無音部分の削除も行え、大変正確な比較が行えます。なお「DA-Port2000」精度に関してはCDを用い、CDデッキ、ポータブルCDからDA-Port2000経由での読み込んだファイル、CD2WAV32で読み込んだファイルのバイナリ完全一致を確認していますので、DA-Port2000自体がデータを乱すなどは考えられません。(ファイルサイズも全て一致)
 さぁいよいよファイルを整理し、バイナリ比較です。

3.結果発表
 比較する以前に全ファイル、ファイルサイズ異なってます!・・・まぁ事は試しと言うことでバイナリ比較しましたが、当然の如くどの組み合わせも一致しませんでした。さらによくよく詳細情報を観察すると、「曲の時間」が1秒多かったり少なかったり、それに伴い1ファイルに存在する総サンプル数もすべて異なってました。
 
 参考までにもう一度そのMD(ディスク)で7トラックをパソコンに読み込みWAVファイル化してみると、トラック単位にはバイナリ一致をしました。(1トラック目は何回パソコンに読み込んでもバイナリ一致します。2トラック目以降も同様です)すなわち、MD再生に於いてディスクに記録されたデータのエンコードに関しては、常に同じ結果を生成(伸張)していることが分かります。

 極論的には、「MDは録音する度に録音されている音は異なる」ということです。つまり同じCDから2枚別々のディスクに録音した時点で(録音された)双方の音は異なってしまい、全く同じ音のMDを作成することは不可能ということです。全く同じ音が収録されたディスクを複数作成する唯一の方法は、ディスクに記録されたままの(ATRACエンコーディングされた結果)状態でバイナリコピーできるシステムが必要です。それを行っているシステムといえばトラックムーブ機能がある「MDS-W1」となるのですが、コピー元の曲は消去されてしまうので現実には不可能になります。(これ以上のお話はご遠慮ください)

4.今後の課題
 今回は7トラックでしたが、もう少し出来る限り録音してみてバイナリ比較を行う必要があると思います。また今回のATRACもMDS-DL1のTYPE-Rでしたが、違うバージョンでの比較も検討する必要があります。
 一番手っ取り早いのはあの人達に聞いてみるのが一番なのだが、答えてくれるかどうか・・・。

追加(2000/10/03)
 サンプリングレートコンバータの存在のご指摘を受けました。現在発売されているMD機器のサンプリングレートコンバータは44.1kHzの場合でも通過し、情報が変化しているおそれがありますので今回の実験に使用したMDS-DL1もATRAC以前の問題と考えるのが正しいでしょう。実はサンプリングレートコンバータを搭載していないMZ-1およびMSD-102を用いて同様の実験をしておりますがサンプル数が足りないため公表には至っていませんが、やはり録音する度に異なる結果になっていました。追って再実験をしたいと思います。



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