ATRACの移り変わり

2000年11月21日改訂



基本的にATRACはATRACである以上1種類ですが、毎年音質向上のため改良がなされています。
音楽データ取捨選択の演算能力の向上が基本的なVersionUPのようですが、最近になり独自の
音質向上技術を含んだATRACも登場しています。

注意:すべてのATRACには互換があります。Version違いにより再生できないと言うことはありません。
ただし、Versionが異なることによって意図する音質で再生できないことがあります。
Version 4.5で録音したディスクをVersion 1で再生してもVersion 4.5の音質にはなりません。
また、Version 1で録音したディスクをVersion 4.5で再生してもVersion 4.5の音質にはなりません。

SONY系 ATRAC
バージョン 特徴
Version 1 1993年(秋)から1994年(春)にかけて発売されたものに搭載されています。

 MDの最小記録単位はテクニカルに書いてある通り、1サウンドグループで424バイトです。この424バイトに約0.01秒の音を圧縮して記録するのですが、Version1では424バイトすべてを使用していたのではありません。エラーなどを考えて情報を2度書きしていところもありました。つまり212バイトしか使っていなかったのです。この424バイトというのは絶対使用しなくてはいけないのではなく、ATRAC開発側が使用量を自由に設定できるのです。当時は圧縮情報の書き込みとあって、エラーを気にしており2度書きをしていました。当然情報量が少ないため、音質は最悪でした。(オーディオデータアリアは「オーディオデータ」だけではなく、エラーに対して強くする部分やコントロールするような領域、つまり読み書きの際ミスがないようにするための冗長なデータブロックに使用することが出来ました。この部分は規格書では「作っても良い」と言うことで、必ず作る必要はありません。)
 

このネガティブインパクトでピュアオーディオファンからはそっぽを向かれることになり、未だに尾を引いているようです。
Version 2 1994年(春)から1995年(秋)にかけて発売されたものに搭載されています。

 技術も安定したことから、2度書きの必要が無くなりました。つまり約0.01秒に424バイトフルに使用することができるようになったのです。つまり情報量の拡大によって音質が向上したのです。この段階でATRACの能力的標準音質になったと言えるでしょう。またこの情報の拡大(424バイトすべてを使う)は以降すべてに継承されています。

Version 3
(CXD2536)
1995年(春)から1997年(夏)にかけて発売されたものに搭載されています。
このVersion 3から発売される機種が増えましたが、爆発的に売れることはありませんでした。まだMDは高価な部類のオーディオシステムでしたので、普及に弾みは付きませんでした。ポータブル化もVersion 2時期と比較してもそれほど変化はなく、地味な時代だったかも知れません。このVersion 3は今現在もポータブルに搭載されており、現役のATRACです。
ATRAC-DSPの演算能力は24Bitです。I/Oポートは2系統装備されており、デジタル入出力用は20bitで、A/D・D/Aコンバータとのデータ入出力は24bitとなっているようです。
Version 3.5 1995年(秋)から1997年(夏)にかけて発売されたものに搭載されています。
Version 3と登場している時期が同じになっています。これは何故か、Version 3.5が搭載しされているマシンを見ると一目瞭然です。ずべて据置機もしくはコンポーネント機なのです。つまり高音質を要求されるシステム(据置機)用にVersion 3をグレードアップしたものなのです。特に録音時の演算能力(エンコーディング)が大幅に改善されています。
ATRAC-DSPの演算能力は24Bitです
Version 4
(CXD2650)
1996年(夏・秋)から1998年(現在)にかけて発売されたものに搭載されています
この頃になるとあらゆるメーカーから、あらゆるスタイルのマシンが登場しおり、その結果、競争原理によりポータブル化、長時間再生、低価格化に拍車をかけ、一気に普及しました。1997年の販売台数がポータブルカセットを抜くことになりました。
で、このVersion 4は基本的にデッキタイプのシステム(リファレンス)に搭載されており、ポータブルのようなシステムには採用されていません。
ATRAC-DSPの演算能力は24Bitです
Version 4.5
(CXD2654)
1996年(冬)から1998年(現在)にかけて発売されたものに搭載されています
 適応高域制御の採用によりVersion 4よりもより高精度の演算能力を持ち、音質がさらに向上しています。試聴感はけっこうCDに近く、それなりのシステムを用いない限り、区別は付きにくいです。
ATRAC-DSPの演算能力は24Bit、I/Oのビット幅は20bitです
Type-R
(CXD2656)
1998年(夏)からSONYデッキに搭載されています。
このVersion、といっていいのかな?いままでのバージョン系列とは異なるATRACです。
テクノロジーはVersion 4.5を引き継いでおり、適応広域制御と共にその他回路周りの演算能力が2倍に高められています、が24Bit演算が48Bit演算になるわけではありません。アルゴリズムの表現が良くなりより原音に近い圧縮が可能になりました。事実上ATRAC Version 5と言っても過言ではないようです。
(ソニーからの回答)
ATRAC-DSPの演算能力は24Bit、I/Oのビット幅は20bitです
ポータブル専用
MDLP対応ATRAC
2000年夏発売の「MZ-R900」から搭載されたATRAC-DSP
上記のバージョンから見た位置づけは不明。ポータブル系Ver.3(ないしVer.4)の血を引くATRAC3回路を内蔵したものと推測。
小電力化、ATRAC/ATRAC3の統合、32bitRISCプロセッサーなどなどで構成された0.18μmプロセスの薄型システムLSI。

Pioneer系ATRACシステム

既存のATRACに高音質テクノロジーをプラス!他のバージョンと互換を取りつつ
より原音に近づきました。
ARTIST 
   SYSTEM 
 
  (旧ASRAC)
1998年(夏)からパイオニアのデッキに搭載されています。
パイオニアの単体デッキおよびMDコンポ「FILL」に搭載されているATRAC-DSP。
ARTIST-SYSTEM(ASRAC)は基本的にATRAC部と音楽信号前処理に当たるDSP信号分析部に分かれています。入力されたデジタル音楽信号は周波数分析にかけられ、後にATRACで可聴音声が取捨選択される際によりたくさんの可聴音声信号が残るようにマスキングデータベースを作成します。
そしてそのマスキングデータベースがATRAC部に転送され、その情報をもとに圧縮データを作成します。いままでATRACのみのアルゴリズムで音楽信号が取捨選択を行っていた物を前処理で分析を行い、より高密度なデータを作成出来るようにした物がARTIST-SYSTEM(ASRAC)です。デコーディング(伸長)に関しては他のシステムとの互換性は保たれています。

SHARP系ATRAC

シャープの開発したMDシステム(OEM含む)には上記とは違う、シャープがカスタマイズした
ATRACが搭載されているようです。(詳しいことは調査中・・・というか分からない)
時期から比較するとSharp XがVersion Xと同等の機能を有するATRACだと推測されます。
しかしSharp 5が出た時点から何か違うようです。 (小数点扱いにしていないだけのようです)
Sharp 1 ?
Sharp 2 ?
Sharp 3  「録音再生用」と「再生専用」の2種類存在します。少し前までは録音再生機はもちろん、再生専用機」にも録音再生用ATRACを使用していたことがあります。ATRAC-DSP開発はそれなりに費用がかかるため、再生専用を開発するよりも、録音再生用を再生専用機に流用した方がコスト的に良かったのでが、最近では「小型化」「小電力」を実現するために「再生専用ATRAC」が開発され採用されています。この再生専用ATRACの能力が第3世代と同等のものと言われています。MDの再生はATRACのバージョンには依存しませんので第3世代でも十分なのです。これ以降の録音再生用ATRACの「再生部」は基本的に変わっていないと推測されます。
Sharp 4 1996年(夏)から1998年(現在)にかけて発売されたものに搭載されています。
20Bitの演算能力があります。
再生専用の
  Sharp 4
2000年(秋)登場したMD-ST77に搭載されたATRAC
ノーマルATRACに加えMDLP再生用にATRAC3デコーダを内蔵し、0.25μmプロセスで作成されたATRAC-DSP。ノーマルATRACの演算能力は22Bitになっています。
Sharp 5 1997年(春)から1998年(現在)にかけて発売されたものに搭載されています。
24Bitの演算能力のあるATRACです。
この「Sharp 5」もはじめはコンポーネント機に搭載されていましたが、最近はポータブル機にも搭載されるようになりました。しかし、すべての機種がSharp 5に移行するかと思えば、そうではなく、最近発売された「SHARP MD-SS311/312」はSharp 4を搭載しているようです。
Sharp 6 1998年(夏)から発売される「MD−MS722」に搭載されます。
24Bitの演算能力のあるATRACです。
3次元(時間軸方向/周波数軸方向/振幅方向)適応型ビットアロケーションアルゴリズムの採用。
今まで固定されていた時間、周波数、振幅の軸を音の特性により変化させ、より多くの可聴音声を圧縮できるようにしたものです。
ただ、これらは圧縮時(録音時)に処理されるもので、他のバージョンで圧縮されたものをSharp 6で再生したところで、この機能で音が劇的に良くなるものではありません。
Sharp 7 1998年(夏)から発売されたものに搭載されています。
第6世代をベースに小電力化を実現。ATRAC性能的には第6世代と同じ。
Sharp 8.3 2000年(秋)「MD-MT77」から搭載されています。
第7世代をベースにMDLPであるATRAC3を内蔵。
ATRAC(ノーマルモード)性能的には第6世代と同じ。

SANYO系ATRAC

三洋の開発したATRACです。三洋のICデバイス部門は大きく、あらゆる機器のICデバイスを
各社に供給しています。この中にATRACデバイスもあるのです。
現在私の知る限りでは、3種類のATRACデバイスがあります。一つはポータブル用ATRACデコーダ。
これは再生専用ポータブル機用で、ATRACのデコード能力しか有りません。
二つ目はカーステレオ用ATRACデコーダ。ポータブルと同じように再生専用のデバイスですが、
カーステレオと言うことでCD再生も考慮されているデバイスです。
CD再生時はATRAC回路は使用せずに、D/Aコンバート回路のみを利用します。またこのチップは
CD-TEXTにも対応しているようです。で最後はポータブル録再用ATRACです。
このデバイスは上記2種類よりも後から開発されたようです。やはりエンコーディングの調整が
難しいのでしょうか?当然ながらリニアPCM信号をATRAC変換したり、その逆をしたり出来ます。
MD-U4」に搭載されているのは間違いないですね。
MD用デバイス「LC89640」


Panasonic系ATRACシステム

パイオニアと同じように、ATRACに自社の高音質テクノロジーをプラス!
H.D.E.S  「H.D.E.S.」(High Density Encoding System)
 ATRACに準拠したパナソニック独自の音声圧縮技術です。より細かなニュアンス実現をはかり豊かな音場再生を実現しています。ATRAC-DSPの演算能力は24bitです。

1.高密度ビット割り当て
  低高域を重視した演算処理を行うことで、音のワイドレンジ感を実現。
2.
プリエコーノイズの低減
  急激な音の立ち上がり時のノイズ(プリエコーノイズ)発生時に処理時間単位を最適化することでノイズを低減し、より原音に近い音を再生しクリアーな音が楽しめます。
3.高精度量子化
  録音時のアナログtoデジタル変換の高精度化により、高音質録音を可能に。