以下ではパソコン用を「MO」、音楽用を「MD」として記述します。
MOは「光変調方式」といい、ディスクに照射するレーザー光を調節してディスクに磁気情報を記録
するようになっています。「光変調方式」では光を照射する、光の照射を止める、を繰り返すことにより
記録層に磁力(S・N)を形成します。そのステップを紹介します。
1.書き換えを行いたい部分に高出力のレーザーを照射します。そのときディスク上部から電磁石で
一定の磁力(たとえばN)を与えます。するとレーザーがあたった部分はすべてNに揃います。
2.いま、書き換えを行いたい部分の磁力はすべてNになっています。今度はディスク上部の電磁石は
逆の磁力(たとえばS)に切り替わります。そして高出力のレーザーを照射するのですが、こんどは
連続してではなく、書き込むべきデジタル情報に則り、間欠的に照射されます。すると照射された
部分はSの磁力を持ち、書き換えを行う部分にはS・Nで形成された情報が書き込まれたことになります。
MDは「磁界変調方式」といい、ディスクに照射するレーザー光は一定で、ディスク上部の電磁石の磁力を
切り替えて記録するようになっています。
1.書き換えを行いたい部分に高出力のレーザーを照射します。そのときディスク上部から電磁石で
書き込むべきデジタル情報に則り、磁力を変化させていきます。リアルタイムに磁界を変化させて
書き換えを行う部分にはS・Nを形成するのです。
MDの方が1ステップ少ないですね。そうなのです「光変調方式」と「磁界変調方式」では書き込みのステップが
1つ違うのです。MOは磁力を揃える、書き込む情報に合わせて逆の磁力を与えるの2ステップで、
MDは磁力を揃えることなく書き込む情報に合わせて磁力を変化させて与えるの1ステップです。1ステップで
書き換えできることから「磁界変調オーバーライト方式」と言われています。
磁界変調オーバーライト方式なら1ステップで良いのに、なぜMOもこの方式を採用しないのでしょう。
実は採用できないのです。この2つの方式の違いは方式名からも分かるとおり、光をコントロールするのか、
磁界をコントロールするのか、になります。パソコン用MOは高速でたくさんの情報の読み書きをする必要が
ある、つまり転送レートをよくするためには、記録密度を高めディスクを高速で回転させる必要があるのです。
その時の線速度はMDの10倍以上にもなります。この条件下で磁界変調を行うとどうなるでしょう。
電磁石の磁界を変化させるための周波数が10数MHzというとても大きな周波数が必要になるのです。
この周波数をコントロールするよりも、レーザー光の出力をコントロールした方が仕組み的にもよくなるのです。
MDではこの磁界変調用の周波数は720kHzと低くて済みます。さらにMDではディスクに記録された
磁気情報の形にも大変有利になっています。
MDで書き込んだ記録パターン(アイパターン)はSとNが対称的になっており、SとNの境も弓状できれいに
なっていますいます。MOでのアイパターンは「涙形」となります。これは必要に応じてレーザー出力を
調節するため、記録を命令されてからレーザーの出力が変化するため、レーザースポットが始めは小さく、
徐々に大きくなって行くためにこのような「涙形」になってしますのです。さらに「涙形」はジッター(時間軸ゆらぎ)
の原因にもなりやすいのです。
※パソコン用に「PD」というものがありますが、「PD」「DVD−RAM」「CD−RW」は光磁気ディスクではありません。
※これらは「相変化ディスク」と呼ばれ、レーザー光だけで記録を行い、磁気ヘッド等はありません。
読みとり方法は、MOもMDも違いはありません。低出力のレーザー光を照射すると、レーザーのあたった
部分の磁性(N・S)により、レーザー光が「ひねり」(偏光)を起こします。(レーザー光の断面に対して、
右回転または左回転をします。ひねるというのか、ねじれるというのか)この現象を「カー効果」と呼びます。
磁性によりこの回転方向が異なるため、反射光を調べてどちらにひねられた(偏光した)のかが分かれば、
記録した情報を判別することが出来るのです。ちなみにカー効果で得られる光のねじれは約0.2〜0.3度と
極めて小さい(実際は0.5〜0.7度ぐらいになる・・・下記参照)
読みとり方法をもう少し説明するとこうなります。磁性膜で「ひねり」の加わった光は再びピックアップに
戻ってきます。CDの場合その光はそのままフォトダイオードに届くのですが、MDでは戻った1本の光を
2本にします。そして各の光は「偏光板」通過します。この各偏光板はひねりを加えられた光の特性に
合わせて調節してあり(一方は右回転の光用、もう一方は左回転用)、どちらかの光はこの偏光板を
通過することが出来ません。そして各光用に存在するフォトダイオードがその通過してきた光を関知して、
右回転用のフォトダイオードが反応したら「1」、左回転用のフォトダイオードが反応したら「0」として
デジタル情報を得るのです。
MOの記録層は磁性膜になっています。磁性膜はキューリー温度に達すると磁性体の保磁力が失われます。
つまり磁性体から磁力が失われるのです。このキューリー温度から温度が下がる瞬間に磁力(磁界)を与えて
あげると、磁性体がその磁力を保磁(記憶)するのです。これを「光熱磁気記録の原理」といいます。
このキューリー温度は磁性体の種類によって異なりますが、MDでは180℃となっています。
磁性膜の素材は「テルビウム」「鉄」「コバルト」が主成分になっています。これはカー効果が大きい素材として
開発されました。しかし純鉄系のため、非常に酸化しやすいという欠点も持っています。それを防ぐために、
チッ化シリコンをこの磁性膜を覆うことにより酸化を防止しています。チッ化シリコンはLSIの保護膜としても
用いられており、水そして酸素を全く通しません。さらにこのチッ化シリコンはもう一つの特性を持っています。
それは誘電体膜として機能するのです。磁性膜のカー効果はそのままでいると約0.2〜0.3度と
小さいのですが、この誘電体膜で覆うことによりカー効果が増幅されるのです。その増幅は約2倍以上の
0.5〜0.7度とかなり大きくなります。