DCCがMDより優れている点は「原音データを重視している」ことに尽きます。
MDが入力信号すべてに対して圧縮処理を行うのに対して、DCCは入力信号を
可変ビット方式によって処理をし、デジタルデータの整理します。この整理とは
一種の圧縮処理で「可逆圧縮」になっています。この段階で伸長処理をすると
原音データとまるっきり同じにすることが出来ます。
次に、この整理した情報のビット値を計算します。この時にDCCのビットレート値
である192kbit/Sec以下になっていれば、マスキング処理などはせずにテープに記録
されるのです。もし曲全体がこの可変ビット方式のみで処理が出来た、つまり192kbit/Sec
以下であった場合、再生したときにはCD並ではなく、CDとまるっきり一緒の音楽が
再生できるわけです。
曲全体が可変ビット方式で処理できればいいのですが、そうもいきません。
当然192kbit/Secをオーバーしてしまうことがあるのです。この時はじめてPASCが
動作を始めるのです。
PASCの基本的な動作はATRACと一緒で、人間の耳の聴覚特性を利用した信号圧縮
処理をします。またPASCに入る信号は、可変ビット方式で処理されていない信号、
つまり機器に入力された「生のデジタル信号」が入力・処理が行われます。
1.入力信号をデジタルフィルター(サブバンドフィルター)によって、
0〜24kHzの範囲を750Hzずつ32の帯域に分割する。この1単位帯域をサブバンドと呼ぶ。
PASCはこの「1サブバンド」単位に圧縮処理をします。
※ATRACでは3つの帯域に分割し、その各帯域の中を256+128+128スペクトルに分け、
52スペクトルを1バンド(PASCのバンドとは意味が違います)として、
その1バンド単位に圧縮処理をします。
2.分割されたサブバンドに対して、聴覚特性による圧縮を行います。音の周波数や
音圧によってその音がよく聞こえたり、全く聞こえなかったりします。
そのような音を「等ラウンドネス特性」をもとに、聞こえる音のみを抽出します。
さらに、小さい音は大きな音に隠れて聞こえなくなってしまう「マスキング効果」
を利用して、最終的な「聞こえる音のみのデータ」に仕上げます。
※この処理自体はATRACも同様に行っています。
3.聞こえる音のみになったデータに対して再量子化、つまりビットを割り当てます。
この段階でCDなどと同じように16Bitで処理をしてもまだ192kbit/Secには納まりません。
そこで「可変ビット方式」で処理をするのです。
PASCでは1サブバンドあたり6〜8Bitで、最大21Bitで量子化しています。
ここで〜(から)や最大という言葉を使っているのは全サブバンドに対して均一な
Bit値で処理をしているのではなく、そのサブバンド相応のBit値で量子化していると
言うことです。あるサブバンドでは6Bitで十分だが、ある低い周波数のサブバンドは
21Bitないと表現しきれない、またその瞬間だけ周波数が全くない場合はBitを
振り当てなくてもいいということです。つまり計32バンドの合計Bit数が192kbit/Secを
越えなければ、その32バンド中でフレキシブルなBit振り分けが出来るのです。
※ATRACでは1バンドあたり最大16Bitで行われています。ただし再量子化するデータが
PASCのものとは異なりますので注意して下さい。
以上3ステップを踏んで圧縮処理が行われます。まとめますと、
機器に入力された「生のデジタル信号」が、可変ビット方式で処理され192kbit/Sec以下
ならば圧縮せずに記録する。
上記処理されたデータが192kbit/Secより大きかった場合は、圧縮処理をして
192kbit/Secのデータを作り出し、記録する。
基本的にCDの音は16Bitで量子化されていますが、必要なBit値の平均は4〜5Bitとと言われています。
つまりCDをDCCに録音した場合、ほとんど圧縮処理を必要としないため、遜色(劣化)のない録音が
可能なのです。また高サンプリング周波数や高量子化で生成されたデジタルデータもその瞬間の
音楽データが可変ビット方式の処理で、192kbit/Sec以下であれば圧縮は行われないことになります。
とりあえずなし。