ATRACが聞こえない音成分(周波数)をカットして音楽情報を圧縮(高能率符号化)
をしているのはもう皆さんご存じであろう。まぁこれが音楽をダメにしているとか、
歪みだ云々と言われるのはしかたありません。事実ですから。
しかしこの圧縮において、特に言われるのが高音域の音について、キンキンしている
歪んでいるなどなど。では実際ATRACによってどの辺の高音域成分がカットされているのか?
また、カットされる周波数はどの辺なのかを分析してみたいと思います。
途中注釈がありますのでご注意下さい。
・サンプル曲・・・宇多田ヒカル「First Love」より2曲目「Movin'
on without you」
・使用ディスク・・・「TDK XA-PRO 60」
・使用デッキ・・・「MZ-1」「DM-9090」「DP-5090(CD
Player)」
・サウンドカード・・・SoundTrack128 Ruby + Degital
I/Oポート
・アナライズソフト・・・efu氏作成「WaveSpectra」
Step1:CDからMDに録音
これはいたって普通に録音。DP-5090から光ケーブルを用いてMZ-1およびDM-9090に
デジタル録音。光ケーブルを使用しているのは統一した転送方法にするためです。
Step2:CD、MDの音楽をパソコンに読み込み
MD機器、CD機器を光ケーブルにてパソコンのサウンドカードに接続。
パソコンのレコーディングソフトを録音状態に、そしてCD、MDを再生状態にして
各音楽をWAVファイルに変換。
Data1:CDデッキ「DP-5090」からCDの音楽情報をWAVファイル化(比較用マスター)
DP-5090→サウンドカード→WAVファイル
Data2:MZ-1(ATRAC1)によりエンコーディング、デコーディングされたデータ
DP-5090→MZ-1→サウンドカード→WAVファイル
Data3:DM-9090(ATRAC4.5)によりエンコーディング、デコーディングされたデータ
DP-5090→DM-9090→サウンドカード→WAVファイル
Step3:参考データとしてCDから直接WAVファイル、そしてMP3ファイルを作成
参考としてCD-ROMプレイヤーから直接WAVファイルにしたものと、そのデータから
作成したMP3ファイルを作成。
Data4:もろぼし☆らむ氏作成「CD2WAV32」を用いて、WAVファイルを作成
CD-ROM「JVC-W2010」→(CD2WAV32)→WAVファイル
Data5:データ4をもとに、某IIS利用の某ソフトにてMP3ファイル作成。
それを再びWAVファイルの変換。
WAVファイル→(IISのCODEC)→MP3ファイル→COOL96試用版→WAVファイル
まぁ手順等はともあれ、各データの特徴です。
Data1:データ1,2,3が同一条件になるようにサンプルしたCD直のデータ
Data2:ATRAC
Version1により圧縮されたデータ
Data3:ATRAC
Version4.5により圧縮されたデータ
Data4:PCレベルでのCD直のデータ
Data5:MP3データ
※なお、作成された音楽情報(WAVファイル)は音量(dB)など直CDデータとは異なり小さくなってしまいました。
※そのため、直CDデータもサウンドカード経由のWAVファイルと同じレベルにするために、音量を53%にしています。
※しかしスペクトルの形には影響しておらず、同一条件下と言うことで比較しております。
※説明上、dB値などは表示されているものを使用します。
各WAVファイルを「WaveSpectra」にてスペクトル分析。サンプルしたタイミングは
曲開始から28秒後付近、「アァッ、アァッ」というコーラス部分、バックでタンバリンが
「シャン」と鳴る一瞬のところです。(このタンバリンは定期的に鳴っているものです)
CDをお持ちの方は是非確認してみて下さい。著作権的にデータをアップすることはありません。
また手動にてターゲットポイントを見つけているので「100%ジャストポイント」ではありません。
Data1:CD直のデータ
Data2:ATRAC Version1により圧縮されたデータ
Data3:ATRAC Version4.5により圧縮されたデータ
もう見たまんまですね。
12kHz付近の山がタンバリンの「シャン」と鳴った時に現れるものです。
まずData1ですが、これはCDそのものデータですので20kHzまで十分なレベルを保っています。
20kHzを越えた辺りからレベルが落ち込んでいますが、それなりの傾斜です。
さてさてData2ですが、これはATRAC
Version 1でエンコーディング、そして
デコーディングされた音楽データのスペクトルです。15kHzを越えた辺りからレベルが落ち、
情報がかなりカットされていることが分かります。15kHz〜22kHzまで-80dBほどありますが、
タンバリンの「シャン」があるためレベルが上がっているだけで、特に高音がない場合は
ほぼ-100dB以下になります。
そしてData3になりますと、ATRAC
Version 4.5でエンコーディング、そして
デコーディングされた音楽データのスペクトルです。さすがに改善されているだけあって、
19kHzをちょっと越える辺りまで情報があります。17kHz付近の山、19kHz付近の山も
再現されています。しかし19kHzを越えた途端、レベルが一気に下がります。
かなり急な下がり方をしていますが、無理してこの音域のデータを伸ばすと完璧に
歪みを生みます。19kHz付近もよく見ると密集の度合いが薄いように見えますね。
今話題!?のMP3。正確には「MPEG Audio Layer3」と言いますが、特に説明は
いりませんね。音楽データを10分の1(規格的には1/4〜1/20まで可能)にまでにする
音楽圧縮規格です。よくMDの音質と比較されるので、私も比較してみました。
ここではMP3がMDより優れている、いやMDの方が優れていると言うことではなく、
同じ高能率符号化技術を用いた圧縮方法であるため、高音域成分がどのようになっているのかを
検討するものです。決してMP3を否定および中傷するものではないとご理解下さい。
Data4:PCレベルでのCD直のデータ
Data5:MP3データ
Data4はWAVファイル化の仕方が異なりますが、CDそのものデータです。
21kHz付近〜が多少異なりますが、全体的には同じものといえるでしょう。
次にData5のMP3のスペクトルですが、16kHz以降がかなり特徴があるものになってます。
16kHzまではビックリするほどCD直データと同じスペクトルを描いており、CD音質に
迫ると言われるのが伺えます。さて16kHz以降ですが、17kHz、19kHz各付近に突出した山が
現れています。そうですタンバリンが「シャン」と鳴ったときの山です。しかもこの山、
CD直データやATARC4.5などに現れる山とレベルが一緒なのです。これにはかなり関心
させられます。
基本的にMP3の場合、16kHz以降はレベルが-100dB以下でした。しかし高音が鳴った瞬間、
16kHz以降に山が発生するのです。つまり高音が無い場合は極力16kHz以下で情報を小さくし、
高音で16kHz以上が必要になったらデータとして取り入れると言う仕組みになっているようです。
MP3のデータは、エンコードソフト(アルゴリズム)によって大きく異なりますので、
違うエンコードプログラムによって作成された音楽データが、今回の同じスペクトル
になるとは限りませんのでご注意下さい。
Version 4.5になると19kHzまで情報があるのでよりCDの音に近づいています。
しかし15kHzからは何となくスペクトルの密集度も薄くなり、多少情報不足感があります。
これがATRACの高バージョンになるとキンキンする高音の正体でしょう。
高音域を伸ばしたものの、高音域の「表現力」は良くなったが、やはり情報量の少なさが
影響して、立ち上がりの速い高音は違和感を感じてしまうのでしょう。
さて特別比較のMP3ですが、意外な再現性に正直驚いています。
16kHzまではスペクトル的には他とほとんど変わりません。でもさすがに16kHz以降は
情報量が128kBであるが故に切り取らざる終えないのが分かります。しかし要所要所では
必要と思われる高音成分を取り入れ、なるべく違和感無く仕上げる工夫もあります。
「MDよりMP3の方が音がいい」と雑誌等で言われる(た?)ことがありますが、
MDもATRAC Version 1では完全に負けています。何せ15kHzから情報が無いのだから。
これではそう言われても仕方ありませんね。でもVersion
4.5では・・・。
まぁこれは比較しても仕方ないのでここまでに。
この結果を見て「なぁーんだ。やっぱりMDはダメなんだ」「音が良くないんだ」と
思われる方もおられると思います。しかし私としては「MDの本当を知ってもらいたい」
この1点にあります。検索でMDのことを記述したページが偶に引っかかりますが、
なかなか良く書けているのもあれば、圧縮について完璧に間違った記述をしている
所もあります。MDに対する考えが依然ATRAC Version
1で止まったままなのです。
MDやATRACを否定するのは結構!でも嘘のまま否定するのは勘弁!と言うことです。
これからATRACの開発がどのようになっていくのか分かりませんが、比較するのが
無理なぐらいなスペクトルが現れることを期待しつつ、この辺で締めさせてもらいます。
今後は「Type-R」、パイオニアの「ASRAC」やシャープ系ATRACの分析も行ってみようと思います
が、録音機が手元にありましゃぇーーん。購入もしくは録音したディスクを入手次第チェック!
・efu氏作成、高速リアルタイム スペクトラムアナライザ!「WaveSpectra」
http://www.ne.jp/asahi/fa/efu/
・もろぼし☆らむ氏作成、音楽CDからWAVファイルに変換「CD2WAV32」